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土佐くろしお鉄道事故でのセキュリティホール

土佐くろしお鉄道宿毛駅の特急衝突事故は原因解明に向けての
現地調査が終了し、解析段階に入ったようだ。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050307-00000519-jij-soci
http://www.kochinews.co.jp/0503/050305headline04.htm
調査中でもあり、報道の内容が正しいとは限らないが、高知新聞の
図解をベースに時間を追ってみると
1.運転士は宿毛駅の2km手前で体などに異状をきたし、フルノッチ
(車で言うアクセル全開に相当)のまま操作できなくなる。
2.場内信号機直下にきた際にATS-SSにより非常ブレーキが動作する
このときおよそ120km/hの速度が出ていたと思われる。
3.しかしながらこの時点で既に線路終端から200m弱に迫っていた
ため間に合わずに駅の車止めを突き破り駅舎に衝突。
という流れであった模様である。
この話をもとに今回の事故で突かれた「セキュリティホール」に
ついて書いてみたい。なお、今後の調査によりこの内容が当てはま
らないケースも考えられるのでその点は了承いただきたい。

一般に事故というものはいくつもの原因が重なり合って起きるもの
である。世の中に「たら」「れば」は禁物とは言われるが、実際に
事故を経験しないと技術改良が行われないのは世の常であるので、
あえてコメントすると以下の2つの条件のどちらかが行われていれば
今回の事故は防げたはずだ。
1.運転士が異状をきたした際に検知して即座にブレーキが動作すれば
2.ATSがきちんと停止できる位置で動作開始していれば

同社が採用しているシステムは基本的にJRグループと同一のものを
使用しており(同社が国鉄中村線を転換した路線であり、かつJRと
の直通運転を行っているという経緯がある)以下の「安全装置」が
設置されている。
1.EB装置
運転士が1分間何も操作しないとブザーが鳴り、5秒後に非常ブレー
キ動作。
2.ATS-SS
停止信号の直下を過ぎると非常ブレーキ動作。
または注意信号などの近くにある装置上を通過した際に一定速度を
超えていると非常ブレーキ動作。(今回のケースでは駅279m手前の
場内信号機通過時に非常ブレーキが動作する)
上記のようにある程度の安全装置が置かれているわけだが、今回の
事故に関しては(報道のとおりEBやATSに異常がなければ)上記装置
の盲点を突かれてしまったケースと考えられる。

この欠点とは以下の2点である。
1.EB装置は運転士機能喪失後65秒以内に停止しなければならない場合
の防護には対応できない。
→この間の120km/hで走行したとすると約2.2kmの距離を制御不能と
なったまま走行する結果となる。
2.土佐くろしお鉄道はATS-SSを設備する際に最高速度で駅に進入
しようとしても安全に停止できるような仕組みを備えるべきだった
のにもかかわらず備えていなかった。
→新幹線や一部と特認区間を除き、最高速度から停止できる距離は
最大600m以内と言われている(現在は規定上は明文化はされず)
実際に停止できる距離はそれより少し短い筈だが、少なくとも
約300mでは最高速度から停止することができないにもかかわらず
ここまで速度を絞る策が全く行われていなかった。
これらはいわばタイトルにある「セキュリティホール」にあたるが、
見事にこの2点の問題を突かれてしまったと考える。
1.はJR型のEB装置に共通する「構造上の欠点」であり、かつてから
問題が指摘されていた。
2.は今回については宿毛駅固有の問題ではあるが、同様の危険性を
孕んでいる箇所はJRグループ・第三セクター・中小私鉄含めて
数多く存在している可能性がある。

対策であるが、以下のことが必要と考えられる。
1.EB装置関連の対策
(1)EB装置に代わりデッドマン装置を設備する。
今回はEB装置の「1分間無防備」の欠点を見事に突かれた事故である
と推測される。
この対策としては運転士が機能喪失を検知したら即時非常ブレーキ
を動作させる事が望ましい。
この仕組みとして大多数の大手民鉄・中小私鉄・第三セクターで
使用されている「デッドマン装置」を採用する事が望ましい。
この装置は運転ハンドルから手を離したりペダルから足を離したり
することにより非常ブレーキがかかったり加速しないようにしたり
するもので、この装置により「異状発生時即時停止」を図るもので
ある。(この装置導入には労組の反対が強いようだが、事故が起こ
った以上安全のために採用すべきではないかと思われる)
また、現在のデッドマン装置では会社により動作範囲や内容がまち
まちなので、「一定のブレーキがかかっている場合以外は動作対象」
とし、かつ「動作時には必ず非常ブレーキ作動」とすることが望ま
しいと考える。
(2)EB装置の改良
デッドマン装置が採用できない場合、代替方法を開発することに
なるが、開発費と期間を必要とするので、一刻も早い開発ができる
ことを願う。

2.速度超過関連の対策
・ATS-SS速度照査点の調整
ATS-SSによる非常ブレーキの開始地点(速度照査点)を最高速度
から停止できる場所にもうひとつ設置するようにする。
すなわち、現行25km/hと22km/hの照査点しかないが、より高速の
照査を行う照査点を手前に設け、当該地点での速度超過の場合には
非常ブレーキを動作させるものである。
かつてのATSではできなかったが、現在ではJR東日本(新幹線直通
区間及び首都圏・仙台・新潟周辺の主要路線ではATS-SSより高度
な方式で対応中)・JR北海道のATSを除きこの対応は可能である。

「事故対策は屍の上に成り立つものである」というのは哀しいが真実
である。しかしながら、屍をもってしても充分な安全対策が進まない
のであれば、それは単なる「無駄な死」となってしまう。
「綿密な解析」の上で「必要な対策」がとられるよう願ってやまない。

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コメント

ATS-SSが高速運転を想定してなかったとはいえ、これには「通過してから急ブレーキ」という仕様に問題があるのではないでしょうか。
ATS-Pなら防げたかもしれませんが、特急車両が乗り入れてくるとなれば想定できなかったことはないと思います(振り子式ならなおさら…)

土佐くろしお鉄道にはATS-Pの設置は難しかったのでしょうか…。

投稿: Fields | 2005.03.09 01:37

レスありがとうございます。

うむ・・・やはり説明漏れの点がありましたか。なかなかこういうの書くのは難しいものです。

もちろん速度照査点をおくのであれば、制限標識と予告標識は必須となるでしょう。本当であれば場内信号機がYやYGであってもそれに見合った速度照査を行い、過走を防止するのが筋ですが、多分そこまでお金はかけられないでしょうから代替策として固定的な速度照査点をおけないかという点です。
弱点としては運転士が正常な場合、若干末端部での運転速度が下がってしまうのが欠点ですが。
これについては専門家がもっと良い仕組みを考えてくれるのではと期待しています。

ATS-Pに関しては以下の2点で見送られたと思われます。
1.ATS-Pが高価である。(価格資料まではないのですが、JR東日本が仙台・新潟地区向けに低価格でパターン式が実現できるとしてATS-Psを導入したことからも明白です)
2.JR四国にATS-P導入実績がなく、導入車輛もない。

・・・んで報道ではATSに注目が行きがちですが、むしろ今回私が重視したいのは「運転士機能喪失からEB動作までの65秒間のスキを疲れた」という点ですね。
正直運転士機能喪失の直後に非常ブレーキがかかっていれば駅間で列車は停止するものの充分に防げた事故であると認識しています。

投稿: おまけのかず | 2005.03.09 07:12

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